再審の手続を見直す刑事訴訟法の改正 再審開始の決定への検察官の不服申立ては「十分な根拠がある場合に限り」 同じ日に野党の「不服申立てを認めない」案は否決
テーマ:国会・司法|出来事:2026年5月15日(法律案の提出)〜2026年6月16日(衆議院で修正議決・野党案は否決)〜2026年7月17日(参議院で可決・成立)〜2026年7月24日(公布)|最終更新:2026年10月31日
法律の中身は、衆議院のページに載っている法律案の本文と修正案の字です。国会の発言は、国会会議録の字です(# は会議録の発言番号)。会派の賛否は、衆議院の議案のページと、参議院の本会議の投票結果のページの記録のとおりです。
要点
- 再審開始の決定に対して、検察官が即時抗告(決定に不服を申し立て、上の裁判所に判断を求める手続)できるのは「十分な根拠がある場合に限り」になりました。内閣が出した刑事訴訟法の改正案の字です。検察官が抗告したかどうかと、その理由は、政府が公表します。審判開始の決定をした裁判所は、再審の請求の理由に関連する証拠について、相当と認めるときは検察官に提出を命じなければならない、とも書いています。(資料01)
- 衆議院では、自民・維新・参政の3会派の修正が入りました。5年ごとの見直しで検討する例として「証拠の目的外使用の禁止」と「検察官が保管する証拠の一覧表」の制度を書き加えました。裁判所の勧告による検察官の任意の証拠の提出・開示は、事案に応じ適切に行う、という一項も足しました。(資料02・資料05 #9)
- 同じ2026年6月16日、中道改革連合・チームみらい・日本共産党の議員が出した再審の法律案は、衆議院の本会議で否決されました。この案は、再審開始の決定に検察官は不服申立てをできない、としていました。開示された証拠の目的外使用は禁止していません。(資料03・資料05 #22・資料06 #43)
- 参議院は7月17日、押しボタンの投票で賛成138・反対104で可決し、成立しました。参議院では、立憲民主・無所属と公明党が検察官の不服申立ての禁止などの修正案を出しましたが、否決されました。(資料04・資料07 #31・#43)
根拠
内閣の案(成立した法律)の主な中身
| 条(改正後の刑事訴訟法など) | 中身 | 出典 |
|---|---|---|
| 第445条の2 | 審判開始の決定をした裁判所は、再審の請求の理由に関連すると認められる証拠について、必要性の程度と弊害の内容・程度を考え、相当と認めるときは、請求により又は職権で、検察官に提出を命じなければならない | 資料01 |
| 第445条の5・第445条の6 | 再審請求者・弁護人は、謄写した証拠の複製等を、再審の手続やその準備以外の目的で、人に渡したり提示したり、回線で送ったりしてはならない。再審請求者が違反すると1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(弁護人は、利益を得る目的で渡したとき) | 資料01 |
| 第450条の2 | 再審開始の決定に対しては、その決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、即時抗告ができる。政府は、決定があったこと、検察官が即時抗告などをしたか、した場合の理由を、遅滞なく公表する | 資料01 |
| 第450条の3 | 再審の請求に関する一定の決定への即時抗告の期間は14日 | 資料01 |
| 附則第2条(衆議院で修正) | 政府は施行後5年ごとに、再審の制度の在り方を検討する。検討の例に「証拠の目的外使用の禁止に関する制度」と「検察官が保管する証拠の一覧表に関する制度」を加えた | 資料01・02 |
| 附則第4条第2項(衆議院で追加) | 裁判所の勧告による検察官の任意の証拠の提出・開示と、検察官の任意の提出・開示は、事案に応じ、適切に行うものとする | 資料02 |
| 附則第5条 | 再審開始の決定への不服申立ては、事件の受理から1年以内に決定されるよう努めなければならない | 資料01 |
| 附則第1条 | 公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める日から施行(一部は公布の日、一部は公布から20日を経過した日など) | 資料01 |
内閣の案と野党の案(否決)を並べる
| 論点 | 内閣の案(成立) | 野党の案(衆法9・否決) | 出典 |
|---|---|---|---|
| 再審開始の決定への検察官の不服申立て | 十分な根拠がある場合に限り、即時抗告ができる | 異議の申立て・抗告・即時抗告をすることはできない | 資料01・03 |
| 証拠を出させる仕組み | 再審の請求の理由に関連する証拠の提出を、裁判所が検察官に命じる | 開示の請求があれば、相当でないと認めるときを除き直接開示する。送致のときの証拠のリストも対象。理由との関連性を問わず職権で開示を命じられる | 資料01・資料06 #43 |
| 開示された証拠の目的外使用 | 禁止する。再審請求者の違反には罰則 | 禁止規定も罰則も設けない | 資料01・資料06 #43 |
| 見直し | 施行後5年ごと | 施行後3年を目途に、捜査段階の証拠の目録作成・保存などを検討 | 資料01・資料06 #43 |
野党の案の中身は、2つの資料によります。提出者の西村智奈美議員の趣旨説明(資料06 #43)と、衆議院のページの法律案の本文(資料03)です。
比べ方の注意
- 「十分な根拠」があるかを最初に判断するのは検察官です。首相は委員会で、そのうえで「裁判所による審理を通じて」正しかったかが明らかになると答えています(資料08 #177)
- 野党の案は衆議院で否決されたので、参議院では審議されていません(参議院の議案のページに議決の記録はありません。資料04)
会派の賛否(記録にある粒度のまま)
衆議院 本会議 2026年6月16日(起立による採決)(資料02・03・資料05 #21〜#23)
| 議案 | 結果 | 賛成会派(記録の字) | 反対会派(記録の字) |
|---|---|---|---|
| 野党の案(衆法9) | 否決(起立少数) | 中道改革連合・無所属; チームみらい; 日本共産党 | 自由民主党・無所属の会; 日本維新の会; 国民民主党・無所属クラブ; 参政党 |
| 内閣の案(閣法61) | 修正議決(起立多数) | 自由民主党・無所属の会; 日本維新の会; 参政党 | 中道改革連合・無所属; 国民民主党・無所属クラブ; チームみらい; 日本共産党 |
参議院 本会議 2026年7月17日 内閣の案(押しボタンの投票。投票総数242・賛成138・反対104)(資料04)
| 会派(人数) | 賛成 | 反対 |
|---|---|---|
| 自由民主党・無所属の会(101) | 98 | 0 |
| 立憲民主・無所属(40) | 0 | 40 |
| 国民民主党・新緑風会(25) | 0 | 25 |
| 公明党(21) | 0 | 21 |
| 日本維新の会(19) | 19 | 0 |
| 参政党(15) | 15 | 0 |
| 日本共産党(7) | 0 | 7 |
| れいわ新選組(5) | 0 | 5 |
| 日本保守党(2) | 2 | 0 |
| 沖縄の風(2) | 0 | 1 |
| チームみらい・無所属の会(2) | 1 | 1 |
| 社会民主党(2) | 0 | 2 |
| 各派に属しない議員(6) | 3 | 2 |
賛成と反対の合計が会派の人数より少ないのは、投票しなかった議員の分です。賛成の合計138・反対の合計104は、議長の報告(資料07 #43)と一致します(このページの足し算)。
資料
国会のやりとり
字は国会会議録のとおりです。[中略]の所は、会議録の字を省きました。
2026年5月26日 衆議院 本会議(趣旨説明)(資料06)
平口洋 法務大臣 #41
[中略]近時、一部の再審無罪事件において、再審の請求から再審無罪判決の確定までに相当な長期間を要し、再審請求者等に大きな負担を生ずる事態となっています。
そして、こうした事態の原因に関し、捜査機関が保管する裁判所不提出記録の提出までに多くの時間を要しているといった指摘や、再審開始の決定に対する検察官の不服申立てにより再審の手続が長期化しているといった指摘がなされているほか[中略]
2026年6月10日 衆議院 法務委員会(首相が出席)(資料08)
西村智奈美 議員(中道改革連合・無所属)#158
[中略]無辜を救済するために証拠開示命令制度を明文化する、ここは本当に肝だと思うんですけれども、総理の決断を求めたいと思います。
高市早苗 内閣総理大臣 #159
御提案は、裁判所が、再審請求理由との関連性を問わずに、検察官に対して証拠の提出、開示を命じることができる旨の規定を設けるというものと今理解したのですが。
そのような規定におきましては、再審請求審の審理の在り方ですとか手続構造と整合するかという点、それから、請求理由との関連性を問わずに提出、開示の要否を判断するということは実務上困難ではないかといった懸念も示されていると承知しています。
他方で、証拠の提出命令制度における関連する証拠の範囲というのは相当の広がりを持つものでございます。[中略]
小竹凱 議員(国民民主党・無所属クラブ)#174
[中略]今回、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを、原則禁止となりましたが、十分な根拠がある場合に例外的に認めるというたてつけになっております。この十分な根拠というのは誰が判断するべきだと総理はお考えになりますか。
高市早苗 内閣総理大臣 #175
十分な根拠があると判断をして即時抗告を行う主体は検察官でございます。その判断については、再審開始決定の内容や具体的な事実関係、証拠関係などを踏まえて、抗告裁判所の審判に堪え得る客観的に妥当なものかという観点から、組織的に十分な検討を尽くした上で慎重に行われることになります。
その上で、検察官の判断に十分な根拠があったかどうかは、その後の裁判所の審判を通じて明らかになると考えております。[中略]
高市早苗 内閣総理大臣 #177
十分な根拠というものが即時抗告を行う要件である以上、それが存在するか否かという一次的な判断は検察官が行うことになりますけれども、その後の裁判所による審理を通じて、そうした検察官の判断が正しいものであったかどうかというのはおのずと明らかになると考えます。
2026年6月16日 衆議院 本会議(討論)(資料05)
和田政宗 議員(参政党)賛成の討論 #17
[中略]内閣提出法案が十分かといえば、いまだ改善点は様々あります。ですが、再審請求者の手続保障を一歩でも前に進めようという考えから、参政党は、与党と修正協議を行い、修正案を共同提出しました。[中略]
高山聡史 議員(チームみらい)反対の討論 #19
[中略]内閣提出案は、これを原則禁止とした点で一歩前進ではあります。しかし、例外も残しました。この例外が運用次第で抜け道とならないか、我々は注視をしていく必要があります。[中略]
衆議院の本会議では、ほかに3人が討論をしました(資料05)。
| 発言番号 | 議員 | 会派 |
|---|---|---|
| #11 | 平林晃 | 中道改革連合・無所属 |
| #13 | 神田潤一 | 自由民主党・無所属の会 |
| #15 | 井戸まさえ | 国民民主党・無所属クラブ |
会派の名前は、会議録の会派の欄のとおりです。
経過
| 日付 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2026年5月15日 | 内閣の案と野党の案が、衆議院に提出(受理) | 資料02・03 |
| 2026年5月26日 | 衆議院 本会議で両案の趣旨説明と質疑。法務委員会に付託 | 資料05 #9・資料06 |
| 2026年5月29日・6月9日 | 衆議院 法務委員会で参考人の意見 | 資料05 #9 |
| 2026年6月10日 | 衆議院 法務委員会で首相に質疑 | 資料08 |
| 2026年6月12日 | 衆議院 法務委員会で、野党の案を否決。国民民主の修正案を否決。自民・維新・参政の修正案と内閣の案を可決(附帯決議あり) | 資料05 #9 |
| 2026年6月16日 | 衆議院 本会議で野党の案を否決、内閣の案を修正議決 | 資料05 |
| 2026年6月19日 | 参議院 法務委員会に付託 | 資料02 |
| 2026年7月16日 | 参議院 法務委員会で、立憲・公明の修正案を否決、内閣の案を可決(附帯決議あり) | 資料02・資料07 #31 |
| 2026年7月17日 | 参議院 本会議で可決(賛成138・反対104)。成立 | 資料04・資料07 |
| 2026年7月24日 | 公布(法律第67号) | 資料02 |
訂正の記録
なし
確かめた所と読むときの注意
確かめた所
- 内閣の案の中身(証拠の提出命令・目的外使用の禁止と罰則・検察官の即時抗告の要件と公表・附則)は、衆議院のページの法律案の本文(資料01)を読んで確かめました(2026年10月25日)
- 衆議院の修正の中身は、衆議院のページの修正案(自民、維新、参政)の字(資料02)で確かめました
- 野党の案の検察官の不服申立ての規定は、衆議院のページの法律案の本文(資料03)で確かめました
- 提出・付託・議決・公布の日と、衆議院の会派の欄は、衆議院の議案のページ(資料02・03)で確かめました
- 参議院の会派ごとの票は、参議院の投票結果のページ(資料04)で確かめ、議長の報告の数(資料07 #43)と合うことを足し算で確かめました
- 国会の字は、すべて国会会議録検索システムの API で取った本文と照らしました
読むときの注意
- 条の番号は、法律案の本文の番号です
- 参議院の立憲・公明の修正案の中身は、法務委員長の報告(資料07 #31)の字によります
- 国民民主党の衆議院での修正案の中身は、法務委員長の報告の「裁判所の職権による証拠開示命令制度を創設すること等」の字によります
