国旗損壊罪の法律 自分が持っている国旗も対象 「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」で公然と損壊すれば2年以下の拘禁刑 2026年7月に成立
テーマ:国会・法律|出来事:2026年6月16日(法律案の提出)〜2026年7月17日(参議院で可決・成立)〜2026年7月24日(公布)|最終更新:2026年10月31日
法律の中身は、衆議院のページに載っている法律案の本文の字です。国会の発言は、国会会議録の字です(# は会議録の発言番号)。会派の賛否は、衆議院の議案のページと、参議院の本会議の投票結果のページの記録のとおりです。
要点
- 日本の国旗を、人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法で、公然と損壊・除去・汚損すると、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金です。自分が持っている国旗も対象です。そういう方法に当たるかどうかは「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して」判断すると書いています。(資料01)
- 議員が出した法律案(衆法)です。自由民主党・無所属の会、日本維新の会、国民民主党・無所属クラブ、参政党の議員17人が、2026年6月16日に衆議院に出しました。衆議院は6月30日、参議院は7月17日に可決して成立し、7月24日に法律第69号として公布されました。参議院の本会議は押しボタンの投票で、賛成161・反対81でした。(資料02・03・04)
- これまでも、外国の国旗を侮辱の目的で損壊すると罪になる規定(刑法 第92条)はありました。刑の重さは同じ2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金です。他人の物を壊す器物損壊罪(第261条)は告訴がなければ起訴できず、自分の物は対象外です。(資料05)
- 委員会では、法律が要る理由(立法事実)と、どこまでが処罰の対象かが問われました。提出者は、国会で挙げた4つの事例は「全て器物損壊罪」で扱われたと答え、自分が持っている国旗を損壊した事例が多いかについては「事実を確認しているわけではございません」と答えました。(資料06)
根拠
法律の中身(法律案の本文の条ごと)
| 条 | 中身 | 出典 |
|---|---|---|
| 第1条 | 「国旗」は、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物 | 資料01 |
| 第2条第1項 | 人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金 | 資料01 |
| 第2条第2項 | その方法に当たるかどうかは、行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して判断する | 資料01 |
| 第3条 | 適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない | 資料01 |
| 附則第1項 | 公布の日から起算して20日を経過した日から施行 | 資料01 |
| 附則第2項 | 施行後3年を目途に、国旗の損壊などの映像のインターネット等での利用の状況、損壊された国旗を公然と陳列する行為などの発生の状況を勘案して検討を加え、必要なら措置を講じる | 資料01 |
これまでの刑法の規定と並べる
| 規定 | 対象 | 刑 | 起訴の条件 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 国旗の損壊等の処罰に関する法律 第2条 | 日本の国旗(自分の物も含む)。人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法で、公然と | 2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金 | 本文に告訴・請求の条件は書いていない | 資料01 |
| 刑法 第92条(外国国章損壊等) | 外国の国旗その他の国章。外国に対して侮辱を加える目的で | 2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金 | 外国政府の請求がなければ公訴を提起できない | 資料05 |
| 刑法 第261条(器物損壊等) | 他人の物 | 3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料 | 告訴がなければ公訴を提起できない(第264条) | 資料05 |
比べ方の注意
- 法律が保護するもの(保護法益)は、提出者の説明では「国旗を大切に思う国民感情」です(資料06 #41・#115)。刑法 第92条の保護法益について、公明党の窪田議員は参議院の討論で「我が国の外交上の国益」と述べています(資料04 #18)。これは討論の中の説明です
- 「告訴・請求の条件が本文に書いていない」は、法律案の本文(資料01)にそうした条が無いという意味です
会派の賛否(記録にある粒度のまま)
衆議院 本会議 2026年6月30日(起立による採決。起立多数)(資料02・資料07 #11・#12)
| 欄 | 記録の字 |
|---|---|
| 会派態度 | 多数 |
| 賛成会派 | 自由民主党・無所属の会; 日本維新の会 |
| 反対会派 | (空欄) |
| 提出会派 | 自由民主党・無所属の会; 日本維新の会; 国民民主党・無所属クラブ; 参政党 |
衆議院の議案のページの賛成会派の欄には、2つの会派だけが書かれています。反対会派の欄は空です。提出会派の欄には4つの会派があります。
参議院 本会議 2026年7月17日(押しボタンの投票。投票総数242・賛成161・反対81)(資料03)
| 会派(人数) | 賛成 | 反対 |
|---|---|---|
| 自由民主党・無所属の会(101) | 98 | 0 |
| 立憲民主・無所属(40) | 0 | 40 |
| 国民民主党・新緑風会(25) | 25 | 0 |
| 公明党(21) | 0 | 21 |
| 日本維新の会(19) | 19 | 0 |
| 参政党(15) | 15 | 0 |
| 日本共産党(7) | 0 | 7 |
| れいわ新選組(5) | 0 | 5 |
| 日本保守党(2) | 2 | 0 |
| 沖縄の風(2) | 0 | 2 |
| チームみらい・無所属の会(2) | 0 | 1 |
| 社会民主党(2) | 0 | 2 |
| 各派に属しない議員(6) | 2 | 3 |
賛成と反対の合計が会派の人数より少ないのは、投票しなかった議員の分です。賛成の合計161・反対の合計81は、議長の報告(資料04 #24)と一致します(このページの足し算)。
資料
| 番号 | 資料 | 種類 | 確かめた日 |
|---|---|---|---|
| 01 | 衆議院「衆法 第221回国会 18 国旗の損壊等の処罰に関する法律案」提出時法律案 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g22105018.htm | 公式資料 | 2026-10-25(第1条〜第3条・附則・理由を読んだ) |
| 02 | 衆議院 同法律案の議案審議経過情報 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DE29A2.htm | 公式資料 | 2026-10-25(受理 6月16日・付託 6月23日 内閣委員会・審査終了 6月26日 可決・本会議 6月30日 可決・参議院 7月17日 可決・公布 7月24日 法律第69号) |
| 03 | 参議院 同法律案の審議経過と本会議の投票結果 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/meisai/m221090221018.htm https://www.sangiin.go.jp/japanese/touhyoulist/221/221-0717-v004.htm | 公式資料 | 2026-10-25(会派ごとの票の数) |
| 04 | 国会会議録 参議院 本会議 2026年7月17日 #12(内閣委員長の報告)・#14・#16・#18・#20(討論)・#24(投票の結果) https://kokkai.ndl.go.jp/txt/122115254X03020260717/12 | 会議録 | 2026-10-25 |
| 05 | 刑法 第92条・第261条・第264条(e-Gov 法令 API。2026年5月21日施行の版) https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045 | 法令 | 2026-10-25 |
| 06 | 国会会議録 衆議院 内閣委員会 2026年6月24日 #41(松野博一議員の趣旨説明)・#108〜#119(長妻昭議員と勝目康議員)・#192・#193(後藤祐一議員と長谷川淳二議員) https://kokkai.ndl.go.jp/txt/122104889X02220260624/41 | 会議録 | 2026-10-25 |
| 07 | 国会会議録 衆議院 本会議 2026年6月30日 #10(内閣委員長の報告)・#11・#12(採決) https://kokkai.ndl.go.jp/txt/122105254X02920260630/10 | 会議録 | 2026-10-25 |
国会のやりとり
字は国会会議録のとおりです。[中略]の所は、会議録の字を省きました。
2026年6月24日 衆議院 内閣委員会(資料06)
松野博一 議員(提出者・自由民主党・無所属の会)趣旨説明 #41
国旗を大切に思う気持ちは万国共通であると考えられますが、我が国では、G7で唯一、外国国旗の損壊等に関する罪の規定はあるものの、自国国旗の損壊等に関しては同様の規定がないという状況にあります。国内でも日本国旗を損壊する事例が確認され、また、近年のSNSの加速度的な普及やグローバル化の進展が見られる中で、そのような事案の発生を将来に向かって抑止する必要があることから、国旗を大切に思う国民感情を保護するため、日本国旗を損壊等する行為についての処罰規定を設ける本法案を取りまとめました。
長妻昭 議員(中道改革連合・無所属)#114
立法事実として公の国会の場で四つの事例を挙げられて、これは全て器物損壊罪で検挙されているんですね、逮捕されているわけです。これでなぜ事足りないのか。[中略]
これは、なぜ器物損壊罪では駄目なんでしょうか。
勝目康 議員(提出者・自由民主党・無所属の会)#115
器物損壊罪につきましては、まず一つは、自己所有の国旗を損壊したところで処罰されるわけではない、これが一点です。それからもう一点は、親告罪でございますので、被害者からの告訴がなければ起訴されないということでございます。
今回のこの法案につきましては、これは保護法益を、個人法益ではなくて、国旗を大切に思うという国民感情、いわゆる社会法益に置いておるところでございます。[中略]
長妻昭 議員 #116
[中略]では、お伺いするのは、自己所有の国旗を損壊した、そういう事例というのはどのぐらい把握しているんですか。これは最近増えているんでしょうか。
勝目康 議員 #117
自己所有の国旗損壊の数が増えているかどうかということでございますが、そもそも、現在処罰対象としていないということもありますので、報道等にも載ってこないわけでございます。
そうしたことから、自己所有の国旗の損壊事例が多発している等の事実を確認しているわけではございませんので、年間何件かといった具体的な数字をお示しすることは難しゅうございます。
後藤祐一 議員(中道改革連合・無所属)#192
[中略]違法性阻却のところを非常に広く読んで、ほとんどの政治的メッセージは違法性阻却される、ほとんどの芸術作品は違法性阻却される、そういうせめて運用にしないと、危ないと思うんですよ、これ。そういうことでよろしいですか。[中略]
長谷川淳二 議員(提出者・自由民主党・無所属の会)#193
[中略]個々の行為について、社会通念上許容されるかどうかという判断において、やはり、その中では、御指摘のとおり、政治的意見を表明するためであったか等の犯行、行為に至る経緯や動機に関わるものとして、違法性阻却の有無の判断に関わることもあり得ると考えています。
ただ、それはあくまでも違法性阻却事由の判断に当たってでございまして、構成要件該当性については方法規制ということで、我々としては峻別をさせていただいております。
2026年7月17日 参議院 本会議(討論)(資料04)
北村経夫 内閣委員長(自由民主党・無所属の会)委員長の報告 #12
[中略]前提となる立法事実の有無、対象となる保護法益、政治的表現等に対する萎縮効果、罪刑法定主義の明確性の観点からの具体的な処罰事例等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。[中略]
堂込麻紀子 議員(国民民主党・新緑風会)賛成の討論 #16
[中略]与党から提案のあった法律案について、国旗の損壊行為を処罰の対象とするだけではなく、国旗の損壊している様子を事後的に配信するという配信行為にまで処罰対象が及んでおりました。しかしながら、この配信行為の処罰対象は、これまでの表現の自由を大きく侵害するおそれがあるものであり、我が党の求めにより全面的に削除とすることができたからです。[中略]
窪田哲也 議員(公明党)反対の討論 #18
[中略]提案者が示した事例は、いずれも他人所有の国旗の損壊であり、器物損壊罪で罰せられます。立法事実はないのです。[中略]
人に著しく不快又は嫌悪の情を抱かせるとは何か。不快や嫌悪は極めて主観的な感情であり、何が処罰対象になるのかはっきりしません。[中略]
参議院の本会議では、ほかに2人が討論をしました。塩村あやか議員(立憲民主・無所属)は反対、梅村みずほ議員(参政党)は賛成です(資料04 #14・#20)。会派の名前は、会議録の会派の欄のとおりです。
経過
| 日付 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2026年6月16日 | 松野博一議員ら17人が衆議院に提出 | 資料02 |
| 2026年6月23日 | 衆議院 内閣委員会に付託 | 資料02 |
| 2026年6月24日〜26日 | 衆議院 内閣委員会で趣旨説明・質疑(25日は参考人)。26日に可決(附帯決議あり) | 資料02・資料07 #10 |
| 2026年6月30日 | 衆議院 本会議で可決(起立多数) | 資料07 |
| 2026年7月7日 | 参議院 内閣委員会に付託 | 資料02 |
| 2026年7月16日 | 参議院 内閣委員会で可決(附帯決議あり) | 資料02・資料04 #12 |
| 2026年7月17日 | 参議院 本会議で可決(賛成161・反対81)。成立 | 資料03・資料04 |
| 2026年7月24日 | 公布(法律第69号) | 資料02 |
訂正の記録
なし
確かめた所と読むときの注意
確かめた所
- 法律の中身(第1条〜第3条・附則)は、衆議院のページの法律案の本文(資料01)を読んで確かめました(2026年10月25日)
- 外国国章損壊罪・器物損壊罪・親告罪の条文は、e-Gov の法令 API で刑法を取って確かめました(資料05)
- 提出・付託・可決・公布の日と、衆議院の会派の欄は、衆議院の議案のページ(資料02)で確かめました
- 参議院の会派ごとの票は、参議院の投票結果のページ(資料03)で確かめ、議長の報告の数(資料04 #24)と合うことを足し算で確かめました
- 国会の字は、すべて国会会議録検索システムの API で取った本文と照らしました。会派の名前も会議録の欄のとおりです
読むときの注意
- 堂込議員が述べた「配信行為」を対象にしていた案は、提出前の案の話です
- 施行の日は、公布から起算して20日を経過した日です
- 提出者が委員会で挙げた「四つの事例」について、答弁は「全て器物損壊罪」と述べています
